今年、2019年アニメ映画公開本数は異常。比較的パッケージ化の早いイベント上映ものを泣く泣く諦めて、大作だけに絞っても、週に1本見るペースじゃろくに追いかけられない勢い。どうしろというのか。正直、僕も含めて、アニメについての記事を作ることが仕事のライター編集者ですら悲鳴を上げている状態ですよ。いわんやお客さんをや。だって劇場での選択肢には、アニメだけじゃなく「アベンジャーズエンドゲーム」「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」始め、実写の話題作もたくさん。全部見るなんておこがましいことはいわない、せめて見たいものだけを見ようとしても、優先順位がなかなかつけられない。どないせいというのか、ホントに。

しかし、そういう状況であるからこそ、ライターの選球眼というか、レコメンドがこれまで以上に求められるとはいえましょう。たぶん。きっと。おそらく。いや、そうあってほしいなぁ……(弱気)。というわけで、少々長い前置きを終えて本題に入りますが、今公開中のアニメ映画の中で、最優先で劇場で見ておくべき作品は「海獣の子供」です。これ、“オススメ”とかいうような、生温いレベルじゃないです。頼むから、見てほしい。

“あの”五十嵐大介さんの代表作を、“あの”STUDIO4℃が、6年もの歳月をかけて、本気でアニメ化したわけです。監督は渡辺歩さん、キャラクターデザイン総作画監督・演出は小西賢一さん。“あの”「映画 ドラえもん のび太の恐竜2006」のコンビ。そして小西さんといえば「鋼の錬金術師 嘆きの丘の聖なる星」であり、「かぐや姫の物語」であるわけです。美術は木村真二さん。「鉄コン筋クリート」「青の祓魔師劇場版―」「血界戦線」の“あの”木村さん。どれだけ「“あの”」を並べたらいいのか、わからない。そんな鉄壁の布陣が、これまでで最良の、最高の仕事をされています。CGI、色彩設計の仕事も濃密で、素晴らしい。すべての要素が相まって、自然の、生命の驚異が、フィルムに満ち溢れている。「アニメーション」という言葉が、ラテン語の「anima(生命、魂)」に由来するものであることを、まざまざと体感する。そんな映像美の極地です。

音の構築も抜かりがありません。巨匠・久石譲さんの静謐さ、奥深さ、浮遊感を湛えたミニマルなサウンド芦田愛菜さんを筆頭とする役者陣の絶妙に「生」な芝居、そして、原作の愛読者であり、自身から志願したという米津玄師さんによる主題歌「海の幽霊」。どれもが映像と重なり合い、卓抜なハーモニーを生み出しています。

これだけのクリエイティブの厚みは、劇場でなければ十全には味わえないでしょう。筆者は昨年、「2001年宇宙の旅」の70ミリ版特別上映に足を運んだのですが、そのとき初めて、自宅では何度も見ていた「2001年宇宙の旅」という映画の衝撃が“わかった”ような気がしたんです。衝撃でしたよ。そして「海獣の子供」も、今後、同様の語られ方をする作品になるのではないかと、そんな気がしています。

というわけで……あらためていいますが、これはもう、懇願ですね。「海獣の子供」を見てほしい。特に10代、20代の若い人に。あなたの人生に、決定的な何かをもたらす可能性のある作品だから。もちろん、大人だって見てほしい。日本の商業アニメーションが生み出した、ひとつの極地ですよ。あなたも、時代の目撃者になってください。

……あ、最後に、蛇足かもしれませんが、ひとつだけ。未見の人はここから先は読まなくてもいいです。なるべく直接的なネタバレは避けますが、物語の核心に触れてみようと思いますので。

この作品に描かれているのは、ある「生命の奇跡」です。主人公である14歳の少女・琉花は、生命の奇跡を目撃します(余談ですが、この「奇跡」はただのオカルティズム、神秘体験ではなく、科学的、論理的な仮説にもとづいた事象だと考えられます。パンフレットに掲載されている、映画評論家の添野智生さんの解説をぜひお読みください)。そのうえで迎える彼女の結末に、不思議さを感じる人も少なくないでしょう。奇跡を目撃した人が、そんな地点に辿り着くのか? と。僕も10代のころ、日常に鬱屈を抱え、「ここではないどこか」を夢想していたころであれば、同じような感想をも持ったかもしれません。しかし、今は少し違う考え方をしています。奇跡は日常の、何気ない一瞬の中にも存在している。人と人が、ささやかに心を通わせる。ただそれだけのことが、本来は奇跡的な出来事なのだ。そう考えると、ラストシーンの琉花の姿に、納得を覚えはしないでしょうか。

では、また次回!

(C) 2019 五十嵐大介・小学館/「海獣の子供」製作委員会


(出典 news.nicovideo.jp)


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